距離を上手に取り、ファンをつくる。
ひとりで夕食の準備をしていたところ、急なお誘いを受けて、近所にできたばかりの中華料理屋さんへ入る。
ぼくの住むエリアは、名古屋駅から少し離れた本陣という地下鉄の駅の周辺なのだが、わりとのどかで5階建てのマンションくらいが一番高いくらいの、昔からある住宅街だ。年寄りも多い。
できたばかりの中華料理屋さんに話を戻すが、このエリアでは珍しい「四川料理」を推すお店だ。
駐車場がないので、駅から家に帰る人、近所の人を中心にお客さんを開拓する必要がある。だから、いきなり四川中華を勧めるのは難しいだろう。
なぜなら、日本人にとって辛い料理は好きな人は多いが、花椒や八角の独特な香りの効いたスパイシーさは苦手な人が多い。さらに、パクチーも多用しているので尚更お客を選ぶ。個人的には大歓迎なんだけどね。好みの店ができて、嬉しい限りだ。
でも、大半の日本人は、よく食べる中華と言えば「まち中華」なんだ。
だから、メニューのバランスが重要なポイント。
その点、このお店はよく考えているな、と感心した。聞けば、すでに十数年前から他の地区で四川料理屋を出店している中国人が経営しているので、なるほど、ぼくら田舎の日本人をよく理解している。
メニューの前半は、ぜひ食べて欲しい自慢の四川料理が並ぶが、中盤から青菜炒め、唐揚げ、八宝菜、チャーハンなど安心のメニューもずらりと収まっている。
うまく考えたな。このレイアウトなら、以下のことが起こりうる。
初回来店:四川料理ばかりかなと一瞬戸惑うが、まち中華メニューがあって安心。回鍋肉定食を頼む。来た来た、うん、なかなかうまいじゃん。
二回目:せっかく最初に勧めてるから四川麻婆定食でも頼んでみようか。おっ、この痺れる感じと独特の香り、意外と好きかも!
三回目:今日は四川料理づくしで行ってみよう。 舌がしびれちゃったけど、やばいな、やみつきになりそう!
こんなにうまくいくとは思えないけど、こういった誘導の仕方で、四川料理ファンを作ることができるはず。
ポイントは、強引に食べさせたいものを押し付けるのではなく、いったんお客に寄せてから、徐々に自分たちの「好き」も知ってもらおうとする距離の取り方だ。ファンの作り方としても優れた戦略だと思う。
これは、文章にもめっちゃめちゃ言えることだよな。
読者に近づいて、「わりと読みやすいですよ。いかがですか」と誘いながら、「こんなんはどうでしょう」って、少しずつ自分の引き出しにある宝物を出す。気付いた頃には、自分の宝物を、読者も一緒に喜んで「好きだ」と言ってくれる。
うん、最高だ。
名前覚えてないけど…四川料理屋さん、また行こう!
ファンが増えて、ずっと営業してもらえると嬉しいな。
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